モデラー探偵

先日、プラモ会での与太話で上がった「モデラー探偵」のパイロットフィルム(?)的な何か。

きっかけは、作業机に放置していたスポイトにうすめ液が残っていて、においをかいで「これは・・・クレオスの塗料希釈用うすめ液かな」とか言っているのを「ペロっ!これはクレオスのうすめ液!」とか探偵風に言い直されたところから「モデラー探偵」の話しに。

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公園の桜の花はあっという間に散り、気づけば新緑の瑞々しい葉がまだいくらか冷気を孕んだ風を受けて揺れている。
そんなのどかな公園を臨む住宅街に二台のパトカーと大勢の警官が乗り込み、一軒の家を封鎖していた。

忙しく出入りする制服姿の警官や鑑識官の間を縫うようにして現場に近づく男が1人。
三十代と覚しいやや丸顔の、瘦せぎすだが肩幅の広いその男は黒いスラックスと白いシャツ、濃いエンジのジャケットを体型にピッタリと添わせて着こなし、長すぎる手足を持て余すようにふらりふらりと歩いてきた。
「参ったなぁ。今日はホビーショーに行こうかと思ってたのに」
ぼやきながら「KEEP OUT」と書かれた黄色いテープを潜ろうとするその男を若い警官が見咎めて呼び止めようとしたが、別の中年の警官がそれを制止した。
「いいんだ。その人は」
男は軽く会釈してふらりふらりと開け放された玄関に入っていった。
「誰なんです?」
若い警官は怪訝そうに先輩警官に耳打ちした。刑事というふうでもなくふらりと現れて当然のように現場に踏み込み男。不審がるのも無理はない。
「お前はまだ会ってなかったな。あれはモデラーがらみの事件では必ず引っ張り出される民間の協力者。巴照 盛太郎(ぱて もりたろう)さんだよ。」


「ああ、来たか巴照」
グレーのスーツに太鼓腹を押し込んだいかめしい顔の中年男がふらりと部屋に入って来た盛太郎に声をかけた。
「伊藤警部。連絡どうも。殺人ですって?」
伊藤警部は盛太郎に使い捨てのゴム手袋を投げてよこし、あごをしゃくる。
「仏さんは、ほれ、そこで死んでる。かわいそうに心臓をひとつきだ。モデラーズナイフってのか?これで背中から刺したらしい。返り血を浴びないようにプラ板(ぷらばん)を押し当ててその上から刺してる。テーブルには作りかけの戦車があるな」
部屋には壁につけていくつもテーブルが並べられており、塗装ブースやかな床、カッターマットなどと工具類が並べて置かれてある。盛太郎にもお馴染みの模型工作用の工具類と塗料や接着剤なども整然と並んでおり、また部屋の棚にもきちんと工具箱やらコンプレッサーやらが整理されてあった。
「羨ましいねえ。こんな工作部屋があるとは。っと、積みプラはこっちのクローゼットか」
よく出し入れするためかクローゼットのドアは外されており中は丸見えになっている。そこには天井まで山と積まれたプラモデルの箱が積み上がっていた。
部屋の中で2つのテーブルの上だけがいかにも作業中ですとばかりに雑然としており、片方のテーブルの前に中背の男が仰向けに倒れている。
「戦車じゃなくて自走砲ですよ。タミヤの1/35 ナースホルンか。冬季迷彩で仕上げるつもりだったんですねぇ」
テーブルの上の作りかけの模型を一瞥した盛太郎は答える。ゴム手袋をつけた盛太郎は、もう一方のテーブルの上を観察した。
「戦車とは違うのか?まあいい。そっちのテーブルにはプラモはなかった。2つのテーブルで作業してたのだろうな」
伊藤警部の声を背中で聴きながら、盛太郎は空のテーブルの上のカッターマットに指を押し当て、その指を腹をまじまじと見て目を細めた。
「赤と黄色と青の削りくず…。こっちではガンプラを作ってたようですね。。。見たところ、仏さんはスケモ専門らしい。警部、このテーブルでは"もう1人"が作業してたみたいですよ」
「なに!犯人か!おい!このテーブルの指紋を調べろ!」
伊藤警部の声が鑑識官に飛ぶ。
盛太郎は死体と作りかけの模型を交互に見て大きくため息をついた。
「やれやれ、犯人もモデラーとして、モデラー同士、仲良くできんもんかねぇ」
盛太郎の捜査が始まった。

          • モデラー探偵 巴照盛太郎 第1巻 「ナースホルンは見ていた」』より
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誰か続き書いてくださいww