中河原

朝の分倍河原の駅を降りると出口を目指す人の群れの中に、中学生か小柄の高校生と小学生の姉妹であろう二人の少女の姿を見ることがある。


二人とも制服を着ており、中学生か高校生の姉はホームの線路側を歩き、妹は姉の歩幅に合わせて一生懸命に姉の横を行く。


妹はその体より大きなランドセルを背負い、ややぶかぶかの制服を着て、黄色い帽子から後ろで二つに分けて結わえた髪を揺らして、時折、姉の方を見上げて薄く微笑む。

姉はそんな妹の方には一瞥もせず、妹の背中に手を回すようにして、それでも触れずにただまっすぐと前を見てもくもくと歩いている。


その二人を後ろから追いつき、追い抜く俺には、姉の方を見たときの妹の横顔しかわからない。
わからないが、姉はきっとにこりともしないで歩いているのだろう。
妹は戸惑うような表情で目線を斜め前に落とし、足を交互に運ぶことに集中する。


少女たちと俺が降りた電車が発車してホームの脇を駆け抜け、俺が二人を追い越して出口に向う階段の昇り口まで来たときに振り返ると、人いきれの最後尾のほうを歩いてくる少女たちをつかの間だけ見ることができる。


少女たちの周りをせわしなく追い抜く大人たちもほとんどいなくなり、電車も通り抜けた広々としたホームを並んで歩く姉妹は、はたして妹は姉を見上げ、姉も妹の顔を見てほっとしたように顔をほころばせる。


妹の細い肩に、華奢な姉の手がかかるのを見るか見ないかの一瞬で俺は視線を階段に戻し、人ごみに踏み込む力を得た気分で歩みだすのである。